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最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)673号 判決 1967年9月21日

亡大月力蔵訴訟承継人

上告人(被告・反訴原告・控訴人) 大月百合子 他六名

右七名訴訟代理人弁護士 寺田熊雄

被上告人(原告・反訴被告・被控訴人) 窪田孝

被上告人(同) 窪田栄蔵

被上告人(同) 間田登志子

被上告人(同) 窪田満智子

被上告人(同) 三宅和江

被上告人(同) 窪田高明

被上告人(同) 下村勝子

右七名訴訟代理人弁護士 岡崎耕三

右訴訟復代理人弁護士 岡本貴夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人寺田熊雄の上告理由第一点について

原判決は、本件土地の所有権が被上告人らにあることを認定したうえ「本件土地(畑)は知事の許可のないまま力蔵に引き渡されたものであるが、同人の相続人たる控訴人(上告人)らは、売買契約による債務の履行として引渡しを受けたという理由で、売主の相続人たる被控訴人(被上告人)らの返還請求を拒むことは許されない」と判示しているのであって、これは上告人の所論の主張を排斥する趣旨をも含むものであることは明らかである。したがって、原判決に所論の違法はなく、論旨は、原判決を正解しないでその違法をいうものであって、採ることができない。

同第二点について

原審の確定した事実関係のもとにおいては、力蔵が本件土地の占有を始めるにあたり、これを自己の所有と信じたことにつき少なくとも過失の責を免れないとした原審の判断は、正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第三点について

農地の売買において知事の許可のない間に農地の引渡がなされた場合、その引渡を受けた者は、右知事の許可のない間は、売買契約による債務の履行として引渡を受けたことを理由に右農地の返還請求を拒むことは許されず、したがって右引渡による買主の占有は正当な権限に基づくものといえないものであることは、当裁判所の判例(昭和三七年(オ)第一〇五三号同年五月二九日第三小法廷判決、民集一六巻五号一二二六頁参照)の示すところによって明らかである。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するもので、採用に値いしない。<以下省略>

(裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)

上告代理人寺田熊雄の上告理由

第一点<省略>

第二点原判決は、取得時効の成否に関し、明らかに判決に影響を及ぼすような法律の解釈を誤った違法がある。

一、原判決は、本件農地売買の「当時、知事の許可がないかぎり売買契約が効力を生じないことは、農調法四条五項の明定するところであって、力蔵はその占有の始め本件土地を自己の所有と信じたことにつき、少なくとも過失の責めを免れない」旨判断している。

二、しかしながら、農調法(農地法)が農地売買の効力の発生を知事の許可にかからしめたのは専ら農地の無制限なる異動を禁じ農民の社会的経済的地位を擁護すると共に農業生産力を保持せんとする国民経済上の必要に基くものであるが、農地売買から派生する純私法的次元における諸問題は同法の立法趣旨とは別に、私法上の諸制度の立法趣旨に鑑み独自の判断を加うべきものである。例えば、未許可状態における農地の売買においても、判例は、買主に債権的請求権を認めるべきものとしているが、それには当然、右農調法の規定が債権的な効力をも否定する程の強行性を有しないことが前提とされているのである。

三、したがって農地の取得時効の成否についても、知事の許可があるまでは、契約の効力が浮動の状態にあり、許可があればさかのぼって有効に確定すると考える以上、他に売買行為に無効原因の存しない限り、買受人には譲受農地を占有するについて過失はなかったものと解するのが相当である。

四、しからば本件売買の成立日として被上告人等の自認する昭和二四年八月から一〇年後の昭和三四年八月末日には取得時効が完成し、上告人等先代力蔵が本件土地の所有権を取得したこととなるのであるから、これと反する原判決は破棄を免れない。

第三点原判決には、物権的請求権の成否に関しても、同じく判決に影響を及ぼすことの明らかな法律上の違背がある。

一、被上告人等は本件売買の無効を前提として所有権の確認と所有権に基く返還の請求をなすのであるが、前述のごとく知事の許可を受けない農地売買の効力は浮動状態にあり、買主は売主に対し、知事の許可および移転登記の各申請に協力すべきことのみならず、目的物件を引渡すべきことを請求しうること、明らかである。

二、してみれば、買主である上告人等は本件土地を占有すべき正当な権限を有するものであるから、これに対して所有権に基き返還を請求する被上告人等の請求部分は失当であり、にも拘らずこれを看過し漫然認容した原判決はこの点においても破棄を免れない。

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